
音を店の看板にするといえばジャズ喫茶となるが、ここには何処にもジャズと言う文字は見あたらない。しかし、ジャズの響きが似合うオーディオがここにはある。杉田誠一氏のここに至る過程の中にジャズ喫茶は避けて通れない時代背景があった。レコードが高くて買えなかった。ましてやオーディオは高嶺の花。そうした時期にオーディオを営業に使ったジャズ喫茶を巡ったが、どこも我慢を強いられる音が充満していた。いい音は大音量でもうるさくないはず。いい音に巡り会えたのは「グッドマン!」と言い切った杉田氏。私にもその記憶がある。60年代、ヤマハ銀座店で輸入オーディオを販売していた。高嶺の花を遠巻きに眺めていたが、「グッドマン」がいい音で鳴っていた事を思い出す。フルレンジであったが、バランスのいい音だった。杉田氏の自宅に収まるのは当然の成り行きだったと思われる。
何故、白楽に、カフェを開店したのですか。「自分の居場所を近辺に捜したのですが、無いんですね。じゃあ、自分で心地のいい居所を造ろうと決めたんです!それがここなんですね」。
看板となるオーディオですが、どの様な経緯でこのシステムに決めたのですか。「まずジャズを看板にしたくなかったですね。オーディオも看板にするのは嫌だった。居心地のいい場所の音、くらいにしか考えていなくて、SACDやビジュアルも考えて映像のモニター装置も置いた。音は王道というかB&Wのスピーカーとマランツのシステムを組み合わせて、これがスタートでしたね」。
でも、ヴィンテージ物のオーディオが看板とはいかなくても、それなりの顔をしていますが?「CDやSACDに限定すると音源の数が限られてしまうし、それに自分が大切にしてきた音がここに無いというのが辛くなって、思案に暮れる事になってしまいましてね」。
アナログ・ディスクにグッドマンですね。「そうそう。自宅のシステムをここに持ってくればいいけど、そうすると帰宅したとき、自分の音が無くなっちゃう。じゃあ、同じ様な音を店でも聞けるようにしようと考えて、システムを考えたのがこれです」。
外観からアルテック?「そうです。ヴァレンシアが基本ですね。で、箱が特徴なんですよ。箱の中に何も詰め物がないのね」。エンクロージャーの中に吸音材が無いって事ですか?「そうです。何も入れないのがこの箱を造ってくれたメーカーの特徴なんです」。
私もじつはアルテックでして、604E 8Gなんですよ。グッドマンとつながりますね。大型のエンクロージャーにユニットを入れている。箱が違えば音も当然違ってきますよね。「箱の特徴で、アルテックとは違った音の鳴り方をしていますが、気に入っていますね。開放的な鳴り方ですね。」
音を聞かせていただいた。せっかくだからアナログ・ディスクで聞きましょう!と。まず、コルトレーンの『至上の愛』。アルテックのホーンから、サックスの朗々としたサウンドが飛び出す。まさに飛び出す、である。ホーンはホーン楽器が似合うといつも思っているが、リード楽器も相性がいい。とくに感銘したのがドラムス。エルヴィン・ジヨーンズのキックをけっ飛ばす力が、もの凄い勢いで伝わってくる。ははーん!!これだ。エンクロージャーの中に吸音材を入れていない音とは、これほど豊かな開放感のある音がするものかと納得させられる。
ボサノバの名盤と続く。『ゲッツ/ジルベルト』。歌声の膨らみというか肉声と表現した方がいいか、声がマイクを通した近接効果の最もいい方向で聞かせ、低音域に膨らみが増して、まるで声帯が共振しているようだ。アルテックの特徴ともいえるホーンから声が放出され、音が見えている様でもある。箱が共振して、表情が膨らんだ感じを受けるのだ。アナログ・ディスクの持ち味とスピーカーが共鳴し中音部の充実感は、どんなに頑張ってもCDやSACDが到達できるものではない。ついには美空ひばりの『シングス・ジャズ』まで飛び出した。
オーディオを組み立てる人物像を強く描き出し、ディスクの音をどのように鳴らすか、主(あるじ)の音の嗜好をイメージできるのがアナログ・ディスクとヴィンテージ・オーディオであると、私は知らされたのである。杉田氏は語る。「オーディオも惚れ込まなくては駄目ですね..」と。「このトーレンスのプレーヤー見て下さいよ!形、姿に惚れ込んじゃうでしょう!。こういうのって、今時、無いですよね!」と語気が強まる。名人芸が影を潜め、量産体制のオーディオとデジタル化が、感動を無くしたか?

□ ジャズ写真展「JAZZ meets 杉田誠一」
2007.10.25[木]〜10.30[火] AM11:00~PM7:00(最終日 PM5:00)
ギャラリー アングル21 045-433-8442
東急東横線白楽駅西口出口より70m<サンクス>前
主催:Bitches Brew 後援:横浜JAZZ協会 協賛:司牡丹