UPDATED 07.31.2006



7.即興音楽の現在

即興音楽といえば、1960年代のフリージャズからの流れで捉える人が多い。たしかに最初にドアを開いたのはジャズだったが、現在ではジャズに限らず様々な音楽的なバックグラウンドを持つミュージシャンが即興演奏の場にいる。また、若い世代では、ロンドン・サイレンスとかベルリン・リダクショニストなどと称される微音・弱音多く用いたり、音響的なサウンド志向が強かったり、コンセプチアルな表現を追求しているミュージシャンもいる。いろいろな傾向が混在し、その表現方法は一様ではない。だが、表象的なサウンドはともかく、そこにひとつの系譜が存在し、不思議なことに世代の断絶は感じられないのだ。大御所となった60代のミュージシャンも若い世代も互いに刺激を与えあっている。そこは、コマーシャリズムともアカデミズムとも一線を画した、独自の自己表現が繰り広げられている現場なのだ。

『Urumchi/SAADET TU¨RKO¨Z』 (Intakt)
Saadet Tu¨rko¨z(vo) Karsiga Ahmediyar(dombra) Sayan Akmolda(kilkobuz, dombra) Talgat Mushik(sazsirnay, shankobuz, sibizgi) Selim Kerey Sidiyik(dombra) Mamer Rayeskhan (dombra) Almagu¨l Davletkalieva(k_lkbobuz) Eldar Saparayeva(cello)
Recorded: 2004 & 2005 in Almaty, Kasakhstan & Beijing, China

一昔前に流行った言い方をすれば「越境する声」である。サーデット・トゥルコスは、政治的な理由からトルコに移住したカザフスタン人を両親に持ち、現在はスイスに住む。中央アジアの伝統音楽を唄う一方、エリオット・シャープ、ジョエル・レアンドレなどとも即興セッションを行っている。バックグラウンド的に、80年代半ばヨーロッパの音楽シーンに登場して大きな話題を呼んだサインホ・ナムチャラクと似たところもあるが、音楽的にはよりフレキシブルで自然体だ。そのトゥルコスが、両親の故国や北京を訪れ、カザフスタン人のミュージシャンと共に録音したのが本作。伝統音楽においても即興は重要なパートである。ユーラシア的な広がりと、なによりも声のチカラを感じる。


『Brainforest/Jacques Demierre - Barry Guy - Lucas Niggli』 (Intakt)
Jacques Demierre(p) Barry Guy(b) Lucas Niggli(ds)
Recorded: November 11, 2004 at Jazzclub Uster (Willy Strehler) Switzerland,& November, 12, 2004 at Loft Cologne, Germany

スイス在住の3人のミュージシャン、ジャック・デミエール、バリー・ガイ、ルーカス・ニグリの共演。デミエールはスイスのベテラン・ミュージシャンで、ウルス・ライムグルーバーのプロジェクトで昨年来日し、横濱インプロ音楽祭に出演していた。
ガイはヨーロッパ・フリーの草創期から活躍しているイギリス人ミュージシャンだか、最近夫人の故国であるスイスに移り住んだ。長年続けてきたロンドン・ジャズ・コンポーザス・オーケストラでの活動が知られているが、最近はまた新しいオーケストラも立ち上げた。インプロヴァイザーとしてもその技量の高さを見せている。この二人にまだ30代後半ニグリが入ったことが効を奏してか、上手くクリシエを回避している。聴き手を惹きつけるクォリティの高いヨーロッパらしい即興演奏だ。


『Solodrumming On Time And Spaces/Fritz Hauser』 (fritz hauser)
Fritz Hauser(drumset, cymbals)
Recorded: January 12 & 13, 1999 in Zurich, Switzerland

ここ数年、音楽批評の現場で「音響」という言葉がよく用いられるようになり、「音響派」という言葉も出現し、ややもすればキャッチーな使い方をされてきた。しかし、そんなこととは全く無関係に、極めて独自性の強いサウンド・インプロヴィゼーションを構築するミュージシャンがいる。このスイス人ドラマー、フリッツ・ハウザーの微分的なサウンド・テクスチュアを用いたドラム・ソロは、「音響派」と呼ばれるミュージシャンよりもずっと音響的だ。実は彼は1999年に単独で来日している。その時、持ってきたドラムセットはまるで帽子箱のような幾つかのケースに美しく見事に収められていた。こだわりはそんなところにもあるのだろう。昨年、横濱インプロ音楽祭にも出演したサックス奏者ウルス・ライムグルーバーとよく共演している。


『Durch Und Druch/Axel Dorner, Tony Buck』 (TES)
Axel Dorner(tp) Tony Buck(ds, per)
Recorded: 2003 in Berlin, Germany

現在、即興音楽シーンでは最も注目されているアクセル・ドゥナーとオーストラリア出身でベルリン在住のドラマー、トニー・バックとのデュオ。ここでドゥナーはほとんど特殊奏法のみで演奏しているので、トランペットらしい楽音は全く出てこない。息を吹いたり吸ったりと単純なことをしているようにも思えるが、相当の技術とコントロール力を要するもので、並のトランペッターで出来るものではない。他方のバックも自信が開発したプログラミングでエレクトロニクスを使用しているので、こちらからもドラムらしい楽音は聞こえてこない。エモーションがなく、ノイズのような音が聞こえてくるだけだが、耳を開いて聴くとこれがかなり面白いのだ。


『Pronto!/Garcia − Gebbia − Wogram』 (Intakt)
Xavier Garcia(sampler), Gianni Gebbia(as, ss), Nils Wogram(tb)
Recorded: February 2001 in Palermo, Italy

シシリアのミュージシャン、ジャンニ・ジェビアとARFIのグザヴィエ・ガルシアとドイツでの注目株ニルス・ヴォグラムによる即興セッション。ジェビアは、初期のイタリアン・インスタビレ・オーケストラに一時参加していた(ただし、録音はない)。
1999年頃だったと思うが、何の前触れもなく来日して、小さなスペースでセッションを行っていたことがあった。その時に地元で演奏活動の他にフェスティヴァルもプロデュースしていると言っていた記憶がある。この異色の公演もゲーテ・インスティチュートとフランス文化協会のパレルモ市開設を記念しての公演で彼の企画による。ガルシアは先のARFIのメンバー。ヴォグラムは、現在最も注目されている若手ミュージシャンの一人で、アルバート・マンゲルスドルフを生んだドイツならではの気鋭トロンボーン奏者だ。Root70でのステージをメールスで見たが、その人気ぶりには驚かされた。彼自身のプロジェクトは昨年の“いーぐる”でお話させていただいた時に紹介したので、今回は割愛した。ガルシアの七変化するエレクトロニクスにジェビアとヴォグラムの二管が色彩豊かな演奏で応じる。ヴォグラムも自身のバンドでの演奏とはひと味違うプレイだ。即興演奏一本というミュージシャンもいるが、ジャズなど自分のプロジェクトで活躍する傍ら、即興演奏も行っているミュージシャンは多く、また違った表情が見えるから面白い。
(注:時間の関係で“いーぐる”ではこのCDをかけることが出来ませんでした)